腰痛は、危険な症状がなければ「ずっと安静」より日常の活動を保つことが大切ですが、急性腰痛と慢性腰痛では運動療法の考え方が異なります。
日本整形外科学会・日本腰痛学会の『腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版』では、急性期は特定の腰痛体操を頑張るより通常の生活を続けること、慢性腰痛では運動療法が有力な選択肢になることが示されています。
まずは「どの運動が効くか」を探す前に、今の腰痛が自分で動いてよい状態なのか、それとも受診を優先したほうがよい状態なのかを確認するのが第一歩です。
腰痛の治し方で「運動すればいい」とは限らないのはなぜ?
腰痛の治し方を検索すると、「安静にする」「歩いたほうがいい」「腹筋を鍛える」「ストレッチをする」など、正反対に見える情報が出てきます。
その理由の一つは、腰痛をすべて同じ状態として扱えないからです。
日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修した『腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版』は、2019年5月15日に発行され、腰痛について「安静より活動性維持が有用か」「運動療法は有用か」といった疑問を個別に検討しています。
その中で重要なのが、急性・亜急性・慢性で運動療法のエビデンスが異なる点です。
- 急性腰痛:特別な運動療法が、無治療やほかの保存的治療より明確に優れるとは示されていない
- 亜急性腰痛:一定の効果を示す研究はあるものの、痛みや機能改善について不明な点も残る
- 慢性腰痛:運動療法は痛みや身体機能、生活の質の改善を目的とする保存的治療として強く推奨されている
- 運動の種類:どの運動が最も優れているかまでは明確になっていない
つまり「腰痛だから腹筋」「腰痛だからストレッチ」と一つの方法に決め打ちするより、腰痛の時期、症状、原因を踏まえて活動量を調整するほうが、現在のガイドラインの考え方に近いんですね。
ここは腰痛対策を考えるうえで、かなり大切なところです。
「運動が良い」という情報だけを見ると、痛みが強いときにも頑張って体を動かしたほうが早く良くなるように感じてしまいます。
反対に「安静にしたほうがいい」という情報だけを見ると、少し動けるようになってからも怖くて動作を避け続けてしまうかもしれません。
大切なのは、運動するか安静にするかを最初から二択にしないことです。
まず状態を確認して、その日の腰に合わせて「できる範囲の活動」を考えていきましょう。

腰痛でも動いたほうがいいのはどんな場合?
重大な症状がなく、日常動作で痛みが極端に悪化しない場合は、必要以上に寝たままにせず、できる範囲で普段の活動を保つ考え方があります。
特に「動いたほうがいい」という言葉は、痛みを我慢して筋トレするという意味ではありません。
『腰痛診療ガイドライン2019』では、急性腰痛について、特定の腰痛体操よりも「通常どおりの生活を継続する」ことの有用性が示されています。
急に痛くなったからといって、自己判断で負荷の高いトレーニングを始める必要はないわけです。
腰痛のために日常生活が大きく制限されると、体力や腰を支える筋力の低下につながり、さらに活動しづらくなる悪循環が起こる可能性もあります。
そのため、個々の状態に合った体操や運動を考えながら、無理のない範囲で活動を保つことがポイントになります。
たとえば、注意すべき症状がなく、歩行や立ち座りができるなら、次のようなところから考えられます。
- 数分だけ歩く
- 座りっぱなしの時間を減らす
- 痛くない範囲で姿勢を変える
- 普段の家事や身の回りの動作を極端に避けない
ここでの目安は、「運動した感」があるかではなく、動いたあとに症状が大きく悪化しないかです。
たとえば「10分歩かなければ意味がない」と考える必要はありません。
数分歩いてみて問題がなければ、普段の生活の中でもう少し動いてみる。反対に、動くたびに明らかに痛みが強くなるなら、一度負荷を下げて状態を確認する。
そんな調整でも十分です。
腰痛になると「早く治したいから何かしなければ」と焦りやすいものですが、急性期ほど、特別なトレーニングを増やすより普通の生活へ少しずつ戻すことが大切な場合があります。
「運動をする」のではなく「必要以上に動かなくならない」と考えると、急性腰痛での活動の意味が少し分かりやすくなるかもしれません。

急性腰痛では運動をどこまでしていい?
急に腰が痛くなったときは、痛みを押して積極的な筋トレを始めるのではなく、可能な範囲で日常生活を続けることを基本に考えます。
ここで迷いやすいのが、「安静にしすぎない」と「痛くても動く」の違いです。
この二つは同じではありません。
たとえば、ベッドから起きられて、トイレへ歩けて、短時間なら座ることもできる状態なら、その範囲の生活動作まで怖がってすべて避ける必要はないでしょう。
一方で、普段行っていない腹筋運動やスクワットを突然始めたり、痛みを我慢しながら強く腰を伸ばしたりすることまで求められているわけではありません。
急性腰痛では、「腰を鍛えて治そう」とするより、「できる生活動作を少しずつ取り戻す」と考えるほうが理解しやすいでしょう。
特にぎっくり腰のように急に強い痛みが出ると、「動いたらもっと悪くなるのでは」と不安になりがちです。
痛みがある以上、無理をする必要はありません。ただし、後ほど紹介する注意すべき症状がなければ、痛みの変化を見ながら可能な活動を少しずつ続けるという選択肢があります。
「今日は昨日より少し立てた」「家の中を数分歩けた」といった小さな変化も、活動を戻す一歩です。
慢性腰痛では筋トレやストレッチをどう考える?
長く続く慢性腰痛では運動療法が有力な選択肢ですが、「この種目をすれば治る」という万能メニューは確認されていません。
『腰痛診療ガイドライン2019』では、慢性腰痛に対する運動療法について、痛みだけでなく身体機能や生活の質の改善を目的とした保存的治療として強く推奨しています。
一方、同ガイドラインは、効果的な運動療法の種類を一つに絞れるだけの根拠はなく、長期的な効果についても研究によって結果に幅があるとしています。
ここは検索情報を読むときに、とても大切なポイントです。
「腹筋が腰を支えるから腹筋運動」「股関節が硬いから腸腰筋ストレッチ」と聞くと、それだけが正解に見えます。
しかし実際の腰は、お腹、背中、骨盤、股関節周囲などが協調して動くことで支えられています。
腰椎は5個の椎骨からなり、その周囲では腹部や背部、股関節周辺の筋肉が姿勢や動作に関わっています。
だからこそ慢性腰痛の運動は、一つの筋肉を集中的に追い込むより、「今できる運動を、悪化させない負荷で続けられるか」という視点で選ぶほうが現実的です。
ウォーキング、体幹運動、筋力トレーニング、柔軟性を保つ運動など候補はいくつもあります。
ただし、どれが合うかは症状や体力によって違います。
慢性的な腰痛があるからといって、いきなり毎日長時間運動する必要もありません。
運動習慣がほとんどない人なら、まず歩く時間を少し増やしたり、長時間座っている途中で立ったりするところから始める方法もあります。
逆に、すでに運動している人なら、痛みが出る動作や負荷を確認しながら内容を調整することも必要でしょう。
特に「腰を反らすと脚まで痛む」「前かがみで症状が変わる」など、姿勢によって症状がはっきり変化する人は、ネットで見た運動を片っ端から試すのではなく、整形外科や理学療法士などに動きを確認してもらうほうが安心です。

腰痛で運動より受診を優先したい症状とは?
安静にしても軽くならない痛み、悪化する痛み、発熱、脚のしびれや筋力低下、排尿異常などがある場合は、セルフケアより医療機関への相談を優先してください。
腰痛の原因には、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、骨折、感染や炎症、腫瘍などがあります。
さらに、血管、泌尿器、婦人科、消化器など、腰そのもの以外の病気が腰痛として現れることもあります。
特に速やかな受診を考えたいのは、次のような場合です。
- 安静にしていても痛みが軽くならない
- 痛みが次第に悪化している
- 発熱している
- 脚がしびれる
- 脚に力が入りにくい
- 尿漏れなど排尿の異常がある
いわゆる「ぎっくり腰」も正式な病名ではなく、急に起こった強い腰痛をまとめて呼ぶ一般的な名称です。
そのため「ぎっくり腰だから放っておけば大丈夫」と、症状だけで自己判断するのは避けたいところです。
脚の痛み・しびれ・筋力低下を伴う場合には椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などが隠れている可能性がありますし、通常ではない強い痛みでは受診が必要になることもあります。
このような状態で「腰痛は動いたほうがいいらしい」とストレッチや筋トレを続けるのはおすすめできません。
運動をするかどうかの判断より、原因を確認することが先になる腰痛もあるということを覚えておいてください。
「腰痛=筋肉の問題」と思い込まないことも大切です。
腰痛対策というと、どうしてもストレッチや筋トレに目が向きますが、まず運動してよい状態なのかを確認する。この順番を入れ替えないことが、安全にセルフケアを考えるポイントになります。

デスクワークの腰痛は「姿勢」より何を変える?
デスクワークによる腰痛では、理想的な姿勢を一日中維持しようとするだけでなく、同じ姿勢を長く続けないことも大切な視点です。
厚生労働省は2013年6月18日、「職場における腰痛予防対策の推進について」を通知し、その中の『職場における腰痛予防対策指針』で、適切な長さと頻度の休憩を取り、腰部の緊張を取り除くことを求めています。
姿勢が拘束される作業や同じ動作を繰り返す作業についても、一連続作業時間を短くする考え方が示されています。
座り作業についても、座っているから腰への負担が小さいとは限りません。
同指針では、座位は全身への負担が比較的小さい一方、腰椎への力学的負荷が大きくなる場合があるとされています。
ですからデスクワークでは、「一日中きれいな姿勢を守る」ことだけに集中するより、姿勢そのものを定期的に変えることにも目を向けてみてください。
立つ、少し歩く、座り直す、作業を切り替える。
そんな小さな変化を挟むほうが実践しやすいでしょう。
これは運動とは少し違いますが、腰痛対策を「毎晩20分の筋トレ」だけで考えず、一日の中で腰が固まりっぱなしになる時間を減らすという方法でもあります。
たとえば仕事が忙しく、まとまった運動時間を確保できない人でも、座りっぱなしを一度中断することなら取り入れられるかもしれません。
腰痛対策を「運動する時間」だけで考えず、一日の活動全体を見直す。これは続けやすさという点でも大切だと感じます。

腰痛の治し方を考える私見|「急性か慢性か」を分けると迷いにくい
腰痛の記事をいくつも読むと、「腰痛は安静に」「腰痛は動くべき」と情報がぶつかって見えることがあります。
筆者としては、この混乱を減らす一番のポイントは、「動くか休むか」の二択ではなく、まず腰痛の時期と症状を分けることだと考えます。
急に腰が痛くなった急性期に、治そうとして腹筋や背筋を何種類も始める必要はありません。
ガイドラインでも、急性腰痛では特定の運動療法より、可能な範囲で普段の生活を続ける考え方が示されています。
反対に、長く腰痛が続いて活動量そのものが落ちている場合には、慢性腰痛への運動療法を検討する意味が大きくなります。
そして何より、脚の筋力低下や排尿異常、発熱、安静時にも続く強い痛みなどがあるなら、「急性か慢性か」を自分で分類することより受診が先です。
私は健康情報を調べるとき、「何が一番効くのか」だけでなく「その方法が向かない人は誰か」を同じくらい大事にしています。
腰痛も同じです。
プランクが良い、ストレッチが良い、歩行が良いと一つの方法だけを強調すると、読者はつい「それをやれば治る」と考えてしまいます。
しかしガイドラインを見ると、慢性腰痛への運動療法の有用性は示されている一方で、最も優れた運動の種類までは決まっていません。
ここからもう一つ見えてくるのは、「腰痛の治し方」を一つの運動メニューとして探さないほうがよいということです。
急性期なら日常生活へ戻していくこと、慢性期なら継続可能な運動を考えること、注意すべき症状があれば受診すること、デスクワークなら長時間同じ姿勢を続けないこと。
同じ「腰痛」でも、最初に取る行動は変わります。
だから最初の一歩は、派手な運動メニューを探すことではありません。
注意すべき症状がないことを確認したうえで、「今日は少し歩く」「座りっぱなしを一度減らす」など、今の自分が無理なく続けられる一つから始める。
このくらいの小さな一歩なら、「腰痛改善のために毎日運動しなければ」と身構える必要もありません。
そして動いてみたら、自分の腰の反応を確認します。
昨日より楽なのか、変わらないのか、それとも明らかに悪化しているのか。
運動名を探すより、自分の症状の変化を見ること。
これは腰痛対策を長く続けるうえで、意外と大切な視点ではないでしょうか。
腰痛対策は、短期間で体を追い込む競争ではありません。毎日の動きを少しずつ取り戻していく作業として考えると、取り組みやすくなると思います。
まとめ|腰痛の運動は急性・慢性と危険な症状を分けて考える
腰痛の治し方として運動を考えるときは、「腰痛なら運動」「腰痛なら安静」と一律に決めないことが大切です。
『腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版』では、急性腰痛では特定の運動を積極的に行うより通常の生活を続けることが重要とされ、慢性腰痛では運動療法が推奨されています。
一方で、どの運動が最も優れているかまでは明確ではありません。
つまり、急に痛くなった人と、何か月も腰痛が続いている人が、まったく同じ運動をする必要はないということです。
そして、安静にしても軽くならない痛み、悪化する痛み、発熱、脚のしびれや筋力低下、排尿異常などがある場合は、運動より受診を優先してください。
何から始めればいいか迷ったら、まずは一つだけ。
危険な症状がないことを確認したうえで、普段の生活を極端に止めず、できる範囲から活動を戻してみてください。
「腰を治すために頑張って運動する」より、「今できる日常の動きを少しずつ取り戻す」から始める。
腰痛との付き合い方を迷っているときは、そのくらいのスタートでもいいのではないでしょうか。
よくある質問
腰痛のときは歩いたほうがいいですか?
危険な症状がなく、歩くことで痛みが大きく悪化しない場合は、短時間の歩行など普段の活動を保つ方法があります。
急性腰痛では、特別な体操を積極的に行うことより、可能な範囲で通常の生活を続けることが重要とされています。
ただし「歩いたほうがいいから」と痛みを我慢して長距離を歩く必要はありません。短時間から始め、症状がどう変化するか確認してみましょう。
急な腰痛でも安静にしすぎないほうがいいですか?
危険な症状がない急性腰痛では、必要以上に活動を止めず、可能な範囲で普段の生活を続けるという考え方があります。
ただし、これは痛みを無視して激しい運動をするという意味ではありません。できる立ち座りや短い歩行など、無理のない日常動作から考えてください。
腰痛には腹筋を鍛えればいいですか?
腹筋だけを鍛えればよいとは限りません。
慢性腰痛では運動療法が推奨されていますが、現時点で「この種目が最も優れている」と明確に決まっているわけではありません。
腰や体幹だけに注目せず、症状や体力、普段の活動量などを踏まえて続けられる運動を選ぶことが大切です。
腰痛には筋トレとストレッチのどちらがいいですか?
慢性腰痛では運動療法が選択肢になりますが、筋力トレーニングとストレッチのどちらか一方が、すべての腰痛に最適とはいえません。
「どちらが正解か」だけで選ぶより、今の症状で無理なく行えて、運動後に明らかな悪化がなく、継続できるかという視点で考えてみてください。
腰痛のストレッチで痛みが強くなっても続けるべきですか?
無理に続ける必要はありません。
特に痛みが増え続ける、脚のしびれや力の入りにくさが出る、排尿異常などを伴う場合は自己判断で運動を続けず、整形外科などの医療機関へ相談してください。
デスクワークの腰痛は姿勢を良くすれば改善できますか?
姿勢だけに注目するのではなく、同じ姿勢を長時間続けないことも大切です。
立つ、少し歩く、座り直す、作業を切り替えるなど、一日の中で姿勢を変える機会を作ってみましょう。
「ずっと正しい姿勢で座る」ことを目指すより、固まった状態を長く続けないという考え方のほうが取り入れやすい場合があります。
参考
- 腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版
- 職場における腰痛予防対策の推進について
- 職場における腰痛予防対策指針
